
「神話になれなかった僕へ」は、ミニアルバム「Grisailles」の最後に置かれている
ミニアルバム「Grisailles 〜グリザイユ〜」は全6曲で構成されている。「Grisaille―鈍色に咲く」「Future Chronicle」「甘い毒」「WE'RE HEROES!!」「ラグナログ」と続いた後、最後に置かれているのが「神話になれなかった僕へ」だ。他の5曲とは違う役割を持たせるために、この並び順そのものを先に決めている。
5曲が描いた主人公たちへの、ひとつのアンサー
直前までの5曲は、形は違えどそれぞれの意味で神話の主役を描いてきた。祈りと再生を得る者、時を編む女神に抗う者、毒のような愛を生きる者、伝説を鳴らす者たち、終末の神話そのもの。「神話になれなかった僕へ」は、その5曲すべてに対するアンサーソングとして、最後の一枠に置いている。
「光に触れ影になった」という、主人公にならない設計
works.htmlでこの曲に添えている一文は「光に触れ影になった僕が、それでも火を盗もうとする記録」。並んだ5曲の主人公たちが光そのものを得ていくのに対し、最後の一曲だけは光の側ではなく、光が生んだ影の側に立たせている。この逆転を、曲全体の設計の核に据えた。
それでも火を盗もうとする、という記録に留めた理由
影になった者を、何も望まなくなった者として描かなかった。影になってもなお火を盗もうとする、という一文を曲の芯に置いている。神話になれなかったことと、望むことをやめたことは同じではない。その区別だけは、この曲に必ず残しておきたかった。
「僕へ」という宛先を、聴き手自身にも開いておく
タイトルは「神話になれなかった僕へ」。語り手が自分自身に宛てた言葉のようでありながら、聴き手が自分を重ねられる余白も残している。5曲の主人公たちのようになれなかった誰かへの手紙としても聴けるように、宛先を曲の中だけに閉じなかった。
色は灰×緑×黒×小さな炎、ほかの5曲とは違う配色を選ぶ
FOLKLORICAの色設計は、無彩色の世界にひとつだけ物語の色を差すグリザイユの原則に従っている。この曲では灰と黒を基調に、緑というほかの5曲にはない色を物語の色として選んだ。勝利を表す金や赤ではなく、静かな継続を表す色が必要だったからだ。
小さな炎だけは消さない、という配色上の約束
灰と黒と緑を基調にしながら、曲名にも重なる「小さな炎」だけは色として残している。影になった者の記録を、完全な暗闇で閉じないための配色上の小さな約束。火を盗もうとする者がいる限り、画面のどこかに消えない炎を置いておく。
ミニアルバムを、勝者の歌ではなく影の歌で閉じる
「甘い毒」や「WE'RE HEROES!!」のような曲でミニアルバムを締めることもできたはずだ。それでも最後に残したのは、神話になれなかった側の歌だった。語られなかった物語に灯をともすというFOLKLORICAの出発点に立ち返るなら、締めくくるべきは勝者の歌ではなく、この一曲だったと考えている。
神話になれた5曲だけを並べると、FOLKLORICAの出発点と矛盾する
FOLKLORICAは、語られなかった物語や忘れられた記憶に灯をともすことを掲げて始まったプロジェクトだ。神話になれた5曲だけを書架に並べてしまうと、この出発点そのものと矛盾してしまう。神話になれなかった側の一冊も、同じ書架に必ず並べておく必要があった。
この曲自体が、まだ神話になりきっていない
works.htmlでは「神話になれなかった僕へ」は現在「制作中」として並んでいる。先行する5曲のように音源や小説がすでに形になっているわけではなく、まだこれから火を盗み続ける途中にある曲だ。曲が語る内容と、曲自体がまだ神話になりきっていない状態が重なっているのも、この曲らしい巡り合わせだと捉えている。